自分の読みに確信を得たあと、勇気を振り絞って、しかし、たぶん震えた声で「凶器は今もお持ちですか?」と聞きました。すると、一瞬表情が何とも言えないものになって、すぐにまたこわばったような表情に戻って「ドン」と布らしき物にくるまれた棒状のものがテーブルの上に置かれました。よく見るとその布には血が何か所もついています。
そこで私はもう1枚カードを開きました。被害者の状況を見るカードです。それを見て私は彼に言いました。「今ならまだ間に合います。相手の方は死んでいません。場所を教えてくれれば私が救急車の手配をすぐにします。もちろんあなたのことは一切話しません。殺人かそうでないかはあなたの人生においてとんでもなく大きな違いを生みますよ」と。
しばらく沈黙が流れました。たぶん1分ほどだったのですが私も全身に脂汗が出てくるし、それこそ数十分に感じるほど長く感じました。やがて彼はぽそりとある住所を言いました。そこで私は目の前で119番に電話をし、住所を告げ「腹を刺されている人がいるからすぐに向かってください」と言いました。電話の向こうで事情を聞きたいような話をしていましたがともかく早く言ってあげてほしい事を繰り返して、電話を切りました。
すると今度は彼がこちらを見ながら非常に驚いた顔をしていました。そして「なぜ腹を刺したとわかったのですか?」と聞いてきました。私は「占ったからです」と何とも間抜けな返答をしていました。それから「ともかく今の状態なら自首が成立するから、私もつきあうので警察にいきましょう」と何度も話をしました。「もちろん、救急車の手配もしてあることを私が証言しますから」などとおそらく必死の形相でまくし立てている感じだったと思います。30分ほど私が話している間、彼はうつむいたり、私の方を見たりを繰り返しながら終始無言でした。そして突然「わかりました。はじめて会った人にここまで心配してもらえると思いませんでした。警察にいきます」と言いました。私はそのまま取るもののとりあえず、一緒に雨の中タクシーを呼んで近くの警察署に行きました。
警察署に着くと事情を説明し、彼の持っていた凶器(包丁だったようです)を提出し、その場で逮捕されました。私も別室に通されて事情聴取をされました。一通りの話が終わって警察署を出た時には日付が変わっていて、雨もやみ、きれいな月が出ていました。